会長挨拶
第23回日本AWAKE SURGERY学会
会 長 藤井 正純
福島県立医科大学医学部脳神経外科学講座
このたび、第23回日本Awake Surgery学会を主催させていただくにあたり一言ご挨拶を申し上げます。開催にあたり、学会のテーマを、「覚醒下手術の標準化」とさせていただきました。これまで、本学会は、世界に先駆けて2013年にガイドラインを発表し、その後、2021年には第2版「Awake Surgeryガイドライン」を世に出すなど、覚醒下手術の標準化・均霑化に取り組んだ誇るべき歴史があります。こうした成果の一端として、健康保険システムと連動する形で、施設認定が導入されるなど、その質を担保しながら普及が進んでいます。本学会では、さらに未来のガイドラインの礎となるべく、手術手技・麻酔・評価のそれぞれの視点で討議を深めたいと考えております。
さて、こうした覚醒下手術の普及の背景として、この手術自体が、その歴史の中で、脳という臓器の本質に光をあてながら、ヒトの脳機能を守り、かつ病変を最大限切除するために、本質的に重要な手術法であるという自らの価値を明らかにしてきたことを見逃すことはできません。すなわち、脳は、これまで長く考えられて来たような、機能の固定し、完成された臓器ではなく、並列で走る複雑で多様なネットワークが統合的に働いて認知機能を担い、経験や外界の刺激、病変の存在や手術を含めた治療介入により、経過とともにダイナミックに変化し、冗長性と可塑性を備えるネットワークの臓器であるとする考え方、この息吹を臨床の現場に吹き込んだといえます。症例ごとに、さらには、たとえ同一症例であっても、経過の中で脳の機能地図が異なる事実に、覚醒下手術の本質的な価値があります。
一方で、覚醒下手術の進むべき未来を見渡してみます。次世代の脳神経外科には、家庭生活だけでなく豊かな社会生活を実現する、いわば患者の「真のQOL」を守るため、生命や基本的な神経機能だけでなく、高次脳機能を温存することが求められています。その中で、覚醒下手術への期待は大きなものがあり、すでに、症例に応じて、最大上切除(supratotal resection)や、多段階での手術戦略、言語機能だけでなく、右大脳半球が担う脳機能を対象とした手術など、覚醒下手術を基軸とした取り組みが始まっています。しかしながら、術中という限られた時間制約の中で、どの脳領域で・どの課題を用いて・結果をどう解釈して、摘出の可否と機能予後を判断するのか、など、未だ解決すべき多くの課題があります。ここで、機能障害が未だ生じていない患者に対峙し、言語を含む高次脳機能を如何に守るのか、について考える時、神経心理学/高次脳機能障害学、すなわち、脳局在病変に伴う機能障害から脳機能の過程や神経基盤を考える、いわば障害学の体系の知識が不可欠です。本学会では、その創設時から、手術手技・麻酔法だけでなく、「言語評価」として神経心理学の専門家に参画いただいており、本学会では、あらためてスポットライトをあてたいと考えております。
覚醒下手術の施設認定に関わる認定講習会を含め、本学会にどうぞご参加いただきますよう、お願い申し上げます。福島県立医科大学医学部脳神経外科学講座一同、皆様のお越しをお待ちしております。